5、佐賀弁護士会声明文

玄海原発へのプルサーマルの導入に反対する会長声明


日本弁護士連合会は、1976年の人権擁護大会において、「原発の運転・建設の中止を含む根本的再検討」を決議したことを初めとして、1998年5月に開催された定期総会においては、「使用済燃料の再処理を止め、高速増殖炉プルサーマルなどのプルトニウムをエネルギー源とする政策を放棄すべきである。」という「日本のプルトニウム政策に関する決議」をし、さらに、2000年の人権擁護大会においても、「原発の新増設の停止と既存原発の段階的廃止。使用済み燃料再処理の中止と直接処分の法制度の整備」等を決議するなどしてきた。さらに、2004年5月には、「六ヶ所再処理工場操業中止等を求める緊急提言」において、「国及び電気事業者は、プルサーマル計画を中止すること。」を提言するなど、日本弁護士連合会は、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX燃料)を使用するプルサーマル導入について、これに反対する姿勢を貫いてきたものである。しかるに、九州電力は、九州電力玄海原子力発電所3号機において2010年までにプルサーマルを実施することについて、2004年5月に経済産業省に対し原子炉設置変更許可申請書を提出し、2005年8月30日には同省の設置許可を受けている。また、九州電力は、佐賀県玄海町に対し、プルサーマル実施について事前協議を申し入れているが、玄海町においては、2月17日に同町議会によって計画の推進を求める同町町長宛の意見書が採択され、これを受けて同月20日に同町町長が佐賀県知事に対し計画の受入を表明しており、さらに、佐賀県においても、同月21日に知事が計画について同意する意向を表明するなどしている。原発から出る使用済み核燃料を再処理してウランとプルトニウムを抽出し、核燃料に再利用するというのが我が国の進める核燃料サイクル政策であり、高速増殖炉がその中核を担うことが予定されていた。しかし、使用済み核燃料の再処理は殆どの国においてすでに放棄されており、高速増殖炉についてもその実用化の目処が立っていないのが現状であって、我が国における核燃料サイクル計画の破綻は、すでに明らかである。
その過程で、国のエネルギー基本計画によって、当初は過渡的な位置づけに過ぎなかったプルサーマルが、核燃料サイクルの「当面の中核」に格上げされた。そこで、東京電力関西電力が先陣を切ってプルサーマルに着手しようとしたものの、MOXデータの捏造や、東京電力による原発トラブル隠し等のため、その実現の見通しは立っていない。そのため、現状では、全国に先駆けて、玄海原発プルサーマルが導入されるおそれが現実化しているところである。
しかしながら、プルサーマルを導入した場合、融点の低下、熱伝導度の低下、ガス放出率の悪化等MOX燃料のウラン燃料と比較した場合の安定性上不利な特性等のために、通常のウラン燃料を使用した原発に比べて、事故を惹起しやすくなる上に、事故が起きた場合には、それが拡大し、軽水炉と比較してより重大な放射線被害を発生させることになる。さらに、経済的観点に照らしても、プルサーマルによる発電コストは、通常のウラン燃料を使用した場合のコストに比べ、約4倍にも上ることが明らかになっている。また、国ないし電力事業者は、プルサーマルを推進する理由として、電力供給の安定性を挙げるものの、この理由は、上記のような危険性を無視してまで、プルサーマルを推進する理由とは到底なり得ないことは明白である。加えて、九州電力は、プルサーマルについて、環境に対する低負荷を強調するものの、一度事故を起こせ
ば広範囲の環境すべてを長期間に亘って破壊しかねないプルサーマルについて、環境への負荷が小さいなどと評価することは、矛盾も甚だしく、到底採用することのできない主張である。
さらに言えば、プルサーマルは、周辺住民だけにとどまらず極めて広範囲の住民の生命や身体に対する重大な脅威となり得るものである。したがって、これら不利益を蒙るおそれのある住民すべてに対して、その安全性等についての説明がなされ、議論に参加する機会が十分に付与されるべきである。ところが、玄海原発におけるプルサーマル計画については、これら住民に対して未だにそのような機会が提供さ
れたと言い難い状況にあると言うべきである。
なお、最大の問題点であるプルサーマルの安全性について、佐賀県知事は安全性を確認できた旨表明しているが、これについては、九州電力の説明に安易に受け入れた印象がぬぐい去れず、玄海町に隣接する唐津市議会が、現在もなおプルサーマルの安全性に疑問を呈しているように、十分な議論がなされた結果そのような結論に至ったものとは到底評価できない。また、原発については、いかにそれが安全であるとされていても、不注意ないし不適切な作業等の人為的な理由により、予想し得ない事故が惹起され、それによって重大な結果が発生し得ることは、1999年9月30日に、茨城県東海村において発生した臨界事故等に照らし明らかである。以上のような理由から、当会においては、玄海原発におけるプルサーマル導入には強く反対し、九州電力には、その計画自体の見直しを求めるものである。

2006(平成18年)年3月15日
佐賀県弁護士会  会長 山 口 茂 樹